<第8ラウンド>
マミちゃんはこの後に予定があるとのことなので、元町駅付近で彼女を降ろしました。
しかし、マミちゃんとともに、ルイちゃんも車から降りてしまいました。
2時間前のデジャヴ、今度こそ、解散の流れです。
脳が命令を出す前に、そう、脊髄反射で、ぼくは運転席から降りました。
そして、まだその場に留まっているルイちゃんに声をかけます。
「ルイちゃんは今からどうするの?」
「えっと、電車で帰ります」
「それなら車で送ろうか?」
「いや、悪いですよ。手間をかけてしまいますし」
「手間じゃないよ。俺らの帰り道やし。さあ、乗ってよ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
そう言って、彼女は愛車のFITに三度、乗り込んでくれました。
さっきまで白旗を振り回していた心の中のぼくは、鉢巻を巻いた姿で、よっしぇあ!と叫んでいました。
彼女の家の方面に車を出したとき、路肩でマミちゃんが手を振っていました。
「今日はありがとうな!マミちゃん」
ゴム毬のように弾んだ声をかけて、アクセルを踏み込みました。
<第9ラウンド>
「プリズンブレイクは見た?」
「シーズン12までは見ました」
きゃぷてんは、後部座席のルイちゃんと海外ドラマの話で盛り上がっていました。
洋服の青山、ライフ、宮本むなし…
高速神戸と新開地の間の幹線道路を通りながら、ぼくは必死に頭を捻っています。
彼女を家の近くに降ろすまであと5分もない、どう誘おうか、と。
彼女は、「ラインで誘われても断ることもある」と言っていたので、今日のうちに、次のアポイントメントをとるしかないのです。
誘うとすれば、彼女を車から降ろしたとき、ここしかないのです。
ジャブを放ち、ボディブローに耐え、クリンチで時間を稼いだここまでの9つのラウンド。
そして、最後の戦いはやってきました。
<最終ラウンド>
「この辺でいい?」ぼくはルイちゃんに尋ねました。
「はい、本当にわざわざありがとうございます」
彼女の返答を聞くと、ぼくは勇気を振り絞って言葉を吐き出しました。
「全然いいよ。あとさ、今度二人でご飯に誘おうと思ってるんやけど」
「えっと、大勢で飲むのは好きなんですけど、2人でご飯はちょっと…」
・ ・
ぼくは目が点になりました。
「え?なんでなん?」
「ご飯を食べるのに集中したいじゃないですか?
2人だと、ちょっと集中できないというか…」
とっさに捻りだしたであろう断り文句は、ぼくの心を粉々にします。
横目で捉えた助手席のきゃぷてんは、必死に笑いをこらえています。
しかし、諦めの悪さがぼくの唯一の武器です。
「じゃあドライブは?」
「うーん、それはもっと無理です。
二人きりだとなんか、できればみんなでがいいです」
「そっか」
「すみません」
「気にせんといてや。じゃあ、またみんなで!」
ぼくは強がって彼女に別れを告げました。
「友達としてしかみれない」、の次に言われがちな言葉、
「みんなで」
今回の物語はこの台詞で幕を閉じました。
<epilogue-オトバ情緒に満ち溢れたりけり->
「ナイストライやん」
路地に車を止めて、俯いているぼくに、きゃぷてんは声をかけました。
「俺は妹ってだけで、もうドロップアウトしてしまった。
けど挑戦して、アプローチしたってことはさ。
ナイストライや」

「それは褒めてるんか?」
反省会をしながら、ぼくらは母校に足を延ばし、路地に車を止めました。
懐かしい校門―7年前ぼくが散髪をしてもらった場所―に移動し、きゃぷてんはタバコをくわえてライターに火をつけました。
「俺も一本くれ」
25歳になってから煙草を始めてはみたものの、いまだに上手く肺に吸い込めないぼくは、とりあえず吸ったふりをして、タバコ独特の間合いを楽しみます。
そして、二人が吐き出した煙は、空に舞い上がって消えていきます。
「卒業してからもう7年か」
「ルイちゃんさ。姉ちゃんに言うんやろな。
`お姉の同級生にアタックされた`って」
「そんなこと気にするな。
たぶん俺が告白しても無理やった。誰でも無理や」
「そうか?」
「あの子は大勢派や。ご飯が食べたいって言うてたからな」
「けど、二人で飯行った人もおるって言うてたやん。
俺はその段階にさえいけんかったわけやろ?」
ネガティブになるぼくに、きゃぷてんは救いの言葉を差し伸べてくれました。
「逆にメリットも考えろよ。
もしルイちゃんと付き合って、結婚したら、
正月に姉の`谷さん`と毎年会わんといけんのやぞ?
気まずいイベントを回避できたやん。
しかもさ、あれはたぶん、助手席に俺がいたから断られたんや。
ラインでもっかい誘えば、二人でいけるかもしれんぞ」
「ほんまか?」
地元のバッティングセンター、王将に場所を移して、ぼくらは語らい合いました。
「けどさ、ええ子らやったよな。
お会計のときちゃんとお金だしてくれたし」
「そうやねん。
飯おごりおじさん、飯奢って振られるを繰り返してきた俺としても、まさかやったよな」
ここできゃぷてんは、やはり彼自身気にかかっていた妹、という点に言及します。
「たださ、妹やからなあ。
俺はやっぱり、同級生の妹に恋愛感情はもてん」
「まあな。けど、世の中の男性陣の割合はどうなんやろう。
ナイトスクープに依頼しようかな、`同級生の妹は恋愛対象になりますか?って」
「ありやな。
てかお前はさ。なんで、そんなに振られてもまだ明るいんや?」
「なんでやろ。
俺はたぶんさ、障害があるほど燃えるんや。
難易度の高いゲームをクリアしたい。
オセロの盤面で言うなら、真っ黒の敗色濃厚になってから、それをひっくり返したい」
「それは、10年前のあさっぴへの恋やろ?」
「そうや。あの成功体験の爽快感を知ったら、もう病み付きになるんや。
恋愛も仕事もさ、イージーカムイージーゴーってやつやと思う。
すぐに手に入るものは、すぐに飽きてしまう。
だから、難易度が高くて、障害があるほど、その状況を覆したときの喜びが大きいんよ」
「珍しい感覚を持ってるな。
まあ、このペースで行動していったらいずれお前はいけるからさ。
これからもどんどんナイストライをしていってくれ」
きゃぷてんは、ぼくのナイストライ祝いとして、この時の王将のお会計を払ってくれました。
そのときの餃子の味は、いつもと変わらない美味しさでしたが、なぜか少しだけ塩辛く感じたのです。
【合コンで苦い思い出もあった私は…フィオーレの街コンに参加することにいたしました!】
【貴重な時間を使って読んでいただき、誠にありがとうございました!】
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「学歴、年収、結果、出世、結婚…」 常識や世間体、既定路線の資本主義競争、かつての私はそんな結果だけにこだわっていました。そんな中、とある退職が転機になり、人生観が180度変わります。 「やらなきゃいけない!」なんてない。
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俺たちバグジー親衛隊 疲れた金曜の夜に、ふっと笑えるコメディを。「バカげている事ってめちゃめちゃ楽しいですよ!人生って結構面白いですよ!」
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