16話 盗人は逃げられない / 俺たちバグジー親衛隊 Ⅰ章

 

 

鯉捕獲をはじめて20分ほどが経ちましたが、捕獲には至っておりませんでした。

始めは意気揚々とチャレンジしたぼくも少し諦めが目立っていました。

 

そんなとき、後方にいた織田が暴走を始めます。

 

「俺に任せろっ!」彼はそう叫ぶと、池の端にある稚魚専用水槽を覆う網の板をガッと取り外し、それを持ち上げたのです。武蔵坊弁慶のように板を振りかざしながら、板を縦方向に向けて、池の中央につきさすようにして設置しました。

 

ジャッブーンッ!

 

池を二つに引き裂く様に、中央に板が置かれます。

これによって、鯉の行動範囲は、レンガと板によって約1/3弱にまで狭まりました。

 

「へっへっ!ここからや!!」

織田はそう言うと、縦に置いた板を持って、横にスライドさせ始めました。

 

ガリガリガリガリリィ

 

池の底の岩と板がこすれて恐ろしい音が出ます。

織田が操る板は、鯉がいる方向へと横方向にスライドし、鯉の行動範囲がどんどん狭めていきました。

 

鯉は突然現れた板に驚き、周囲の岩の方に逃げていきます。

 

「これで鯉の行動範囲は減った!今や捕まえろ!」ボブと織田は叫びました。

 

「よっしゃ!」

ここがラッキーチャンスと確信したぼくは、織田のスライド作戦によって、逃げてくる鯉を、右手でがっしりと掴もうとしました。

 

ヌルヌルヌルヌルッ

 

鯉はぼくの手に触れられながらも、巨体を揺らしながらするっと逃げだします。

 

「惜しい!もう一回!」

ぼくはついに、禁忌を犯します。

そう、両手です。自身の体が池に落下する確率は上がるものの、両手を掴むことで鯉をがっしりホールドすることができるのです。

 

まさに最終奥義ともいうべきこの技を使い、両手を池に突っ込みました。そして、「今だ!」と叫んで、泳いでくる鯉に狙いを定めました。

 

ガシッ!

ヌルヌルッヌルヌルッ。

 

ぼくの両手は、鯉の巨体を確実に捉えました。

 

ブルブルブルっ

しかしその瞬間、ぼくの体が震えたのです。驚いてそのまま手を放してしまいます。

 

「とっしー、どうしたんや!?」

「なんで手を放してん!?そのまま持ち上げれば捕獲やぞ!」

 

「ちゃうねん、ちゃうねん!鯉が、泣いてるんや…」

 

「鯉が泣いてる??」

 

「そう、俺が鯉を掴んだとき、あいつの感情がわかってん。

“…もうやめておくれよぉ、さっきから長い時間ぼくを捕まえようとしてさ。なんで捕まえるのさ?”ってさ。

そんな懇願を聞いてちょっと申し訳なくなってよ」

 

織田は「かわいそうなんて甘っちょろいこと言うてる場合じゃないやろ!こっちがやられるぞ!」と猛々しさをみせます。

 

しかしここでみんなをまとめたのはあの男です。

「そうか。じゃあしゃあないな。とっしーも戦意喪失してるし、でかい鯉の捕獲はもうやめてあげよう」きゃぷてんは、ぼくのすぐ隣でそう言いました。

 

「ん?きゃぷてん?」ぼくらは相変わらずマゼランの監視を怠っているように見えるきゃぷてんに尋ねました。

「大丈夫、チラッと横目で監視してるから」と答えるきゃぷてんをぼくらは信じます。

 

歴戦の釣り師としては悔しいところですが、ぼくは鯉の思いに負けました。なんかかわいそう、という理由で大きな鯉の捕獲を諦めました。

 

 

ここで、ぼくらは作戦を変更しました。

「でかい鯉は1匹しかおらへんし、大勢で1匹を狙うのは可愛そうや。今からはたくさんいる小さい鯉を狙おう。作戦はな、こうや…」ボブはそう言って、ぼくらに策を授けました。

 

ぼくは池の周囲の石の上で、自衛隊のようにうつ伏せになりました。

池の表面との距離はわずか数10cmです。

 

その横ではきゃぷてんが、子供たちに大人気のお菓子である”サラダ太郎”を池に放り投げます。その餌に釣られて少し小さめの鯉や稚魚たちが集まってきます。

 

「さあ、いっくぞっ!」

 

ぼくは池に手を突っ込み、サラダ太郎に集まる稚魚達をすくいあげようとします。

ジャブ、ジャブ、金魚すくいのように両の手のひらで何度もばちゃばちゃしていると…

 

「とれたッアッ」

ぼくはそう叫んで、救い上げた小さな稚魚を自分の顔の真横の石の上に置きました。

 

ピチッピチッピチッッ!!

という音を立てながら、稚魚が石の上を跳ねています。

 

「すっげぇ!」

「捕まえたっ」

「釣った魚を見る漁師みたいやな!」

水揚げされた稚魚の様子を4人”全員”が体を屈めて見ています。

 

 

その瞬間です。

 

「何をしているの?」と、後ろから声がしたのです。

 

ぼくらは恐怖で体が凍りました。

そう、マゼランです。マゼランが池にやってきているのです。

 

きゃぷてんはというと、ぼくらといっしょになって稚魚の水揚げを夢中になってみていたのです。

横目でチラッと監視をしていた程度のきゃぷてんの監視では、マゼランの襲来を察知することはできませんでした。

 

ぼくは即座に、捕まえた稚魚を掌に載せて、さらっと池に戻しました。

ピチャッという音を立てて池に戻る稚魚。

 

「今の、なに?」マゼランはすかさず尋ねます。

 

ぼくは「なんもないっすよ!」と必死にごまかします。

 

するとマゼランは「池の中に入らないでねえ…」とぼそりと言いました。

 

鯉盗人なんて大仰なことを言っていたぼくらですが、根は真面目な高校一年生です。

「はい、さーせん」と謝って、池から出ました。

 

 

池から離れて、校舎の裏の路地を歩きながら、ぼくらは興奮を隠しきれませんでした。

「けど、あの捕獲した瞬間は気持ちよかったよな!」

「そうなんよ、あれはテーマパークより興奮するぞ!」

「今度は俺にやらせてくれ!」

 

鯉捕獲の楽しさを知ってしまったぼくらはこのまま引き下がれませんでした。

「じゃあさ、もっかい挑むか!?」

 

そしてもう一度池へ近づくために、校舎を一周し、裏道から池へ向かうことにしました。

 

裏道の途中でぼくらは作戦会議をします。

「さすがに、次池で遊ぶのをマゼランにばれたらやばい。通報されかねんぞ」

「やっぱり大事なのは監視役やぞ」

 

ここできゃぷてんはバツの悪そうな顔をします。

「すまん、きつかった」とぼそり。

 

「まあ、仕方ない。きゃぷてんも人間や。失敗はある」

「今度は、マゼランが来てもすぐに逃げようぜ?」

「せやな。謝ることもせず、もう脱兎のごとく、逃亡しよう。マゼランはおばちゃんやから、そんなに移動速度は速くない。逃げればええだけや」

「せやな、絶対逃げよ!」

 

ぼくらはこうして、マゼランにバレたときの善後策を話し合いました。

そして、裏道を通って、再度池に向かって歩みを進めます。

 

そんなとき、どこからともなく足音が聞こえてきます。

 

ザッ、ザッ、ザッ…

 

「こ、これは、もしや…?」

ぼくらは悟りました。奴が来たのではないか、と。

 

ザッ、ザッ、ザッ…

ザッ、ザッ、ザッ…

 

足音はさらにぼくらに近づいてきます…

 

「おい!!逃げるぞ!」

ボブが声をあげましたがぼくらは、キョロキョロと顔を見合わせるだけです。むしろ歩みを止めてその場に立ちすくしてしまいました。

ヤンキーの風貌で俺に任せろと猛々し苦叫んでいた織田でさえ、天を仰ぐように突っ立っています。

 

ザッ。

 

その時、足音が止まりました。ぼくらの背後から審判者の気配がします。

 

「君ら、何をしてるの?その方向に向かっているということは、もしやまた池に…」

 

振り返ると、そこにはマゼランが立っていました。しかしぼくらはまだ何もしていません。未遂の状態です。逃げる必要もなければ、謝る必要もない。

ただ、事前に決めたように、とりあえず逃げようとはしました。

 

しかし、誰も動かなかったのです。いえ、動けなかったのです。

 

「あなたたち…」

 

マゼランがそういったとき、4人は、そっと頭を下げました。

 

「さーせん…」

 

マゼランは黙ってこっくりとうなづきました。そして顎を使って、出ていけ、という合図を出します。

 

ぼくらは黙ってうなづくと、そそくさと学校から立ち去りました。

 

学校を後にしたぼくらは自分たちの無力さにうちひしがれていました。

「鯉って結構偉いよな。だって、怖い時に、ちゃんと逃げれるやん」

「逃げるって結構勇気がいることなんかもな」

「本当にびびったときには、逃げることさえできん」

「それはさっきの俺たちや。情けねえ…」

 

ぼくらは唇をかみしめました。

この悔しさはきっと、明日への糧になる、はずです。

 

どんなことでも無駄なことはないのですから。

 

 

【貴重な時間を使って読んでいただき、誠にありがとうございました!】

疲れた金曜の夜に、ふっと笑えるコメディを。

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当ブログ「俺たちバグジー親衛隊」は、私自身の実体験を元にした小説を投稿しています。

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第1話 マチカド調査隊 / 俺たちバグジー親衛隊 Ⅰ章

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